2024年1月21日日曜日

教室から:「読むこと」「書くこと」に困難を抱える子どもへの教育について考える~「読書バリアフリー」に触れる授業

教育学部1年生対象のフィールドワーク科目「教育実地研究」では、各領域にわかれて、学校や授業の観察を行ったり、演習や実習を通して、現在の学校や教室がかかえるさまざまな課題について考える活動を行っています。

先日は、「読むこと」「書くこと」について困難を抱える子どもの実態について知り、考える授業を実施しました。

はじめに、NHKハートネットTV「“書けない”ボクと母が歩んだ道 ~学習障害と共に~」を視聴したのち、横浜市の「読書バリアフリー」政策を担当されている、横浜市教育委員会・生涯学習文化財課の方にゲストとしてきていただき、『読書バリアフリー啓発リーフレット』(PDF)や、読書バリアフリー啓発動画などをもとに、横浜市での「読書バリアフリー」の試みについてお話しいただきました。

「音声デイジー」の紹介や、「マルチメディアデイジー」のご紹介をいただいたのち、


マルチメディアデイジー教科書のサンプルを体験してみたりしました。

その後、ゲストの方にお持ちいただいた「バリアフリー図書」――大活字本LLブック点字絵本さわって楽しむ絵本(布絵本、点字つきさわる絵本)――を、みんなで実際に「読んで」みながら、学校や教室において、どのように「読むこと」にインクルーシブな環境を作っていけるだろうか、ということを、考えていきました。


授業の最後に行われたディスカッションでは、“活字で印刷された図書を読むことだけが「読書」ではなく、「読書」にはさまざまなかたちがありえる」ということを皆が感じられるとよいのではないか”という意見が出る一方で、“いろいろな「読書」がある一方で、だからこその「紙の本」だからの良さというのも考えていきたい”という意見も出たりしました。

授業後には、“(最初に視聴した動画のような)「書くこと」の障害がある場合、入試などでできる対応があると思うが、「読むこと」の困難の場合、現在はまだ対応が難しいのではないか”というような問いを投げかけてくれる学生もいて、あらためて、今回の授業での試みがたくさんの問いを学生たちに残してくれたことを実感しました。

「読むこと」「書くこと」の力を育てようとする国語科教育の立場から、「読書バリアフリー」の提起する問いをどのようにとらえていくべきか、という点については、まだまだ考えるべきことがあると思います。

今後も、学生たちや実践家の人たちとともに、このことについて考えていきたいです。



2023年5月21日日曜日

教室から:「漢字×桃鉄~地名漢字って面白い」教材の体験活動を行いました

 教育学部2年生対象の授業「初等教科教育法(国語)」(「初等国語科教育法」)では、学部生たちに、教材開発のプロセスを体験してもらうための試みとして、現在開発されつつある新教材を体験し、それを体験した自分自身の活動に基づき、その教材にどのような学習上のメリット・デメリットがあり、どのような改善が必要されるのか、について考えてもらうための機会を、提供するようにしています。

その中のひとつとして、積極的に取り入れれているのが、ゲーム型教材を体験し、その経験を通じて考える活動です。

2017年度の「初等教科教育法(国語)」では、(公財)日本漢字能力検定協会とSCRAP社との共同で開発されたリアル脱出ゲーム型教材「不思議な漢字洞窟からの脱出」のプレイ体験を行ったあと、これを教材として活用するとしたら、どのような学習単元を展開することができるか、を考える活動を行いました。

石田喜美(2022)「ゲーム型教材の分析を通じて主体性育成について考える ―リアル脱出ゲーム型漢字学習教材「不思議な漢字洞窟からの脱出」を用いた実践事例から―」『横浜国大国語教育研究』, 第45巻, pp.2-15

この試みは、コロナ禍の影響でしばらくお休みしておりましたが、このたび、日本漢字能力検定協会によって、新たに、社会(地理)との教科横断的学習も視野においた新教材「漢字×桃鉄 地名漢字って面白い」が開発・公開されたということで、久しぶりに、ゲーム型教材の教材を体験する授業を、試行的に行ってみることに。



漢字×桃鉄 地名漢字って面白い」では、本教材に関心をもった先生方がすぐに授業を展開できるような、スライド資料や指導案なども用意されています。そのスライド資料を使用しながら、地名漢字の魅力について触れてもらったあと、いよいよ、チームごとにマップシートを配布して、すごろく型の教材を体験。

横浜国立大学には、神奈川を中心に全国から学生たちが集まってきているので、チームごとに、どの地方のマップシートでゲームプレイを体験するのかを考えてもらいました。
いろいろなマップシートを使ってプレイをしてもらったところ、地方ごとに地名漢字の難易度が異なったり、それもあってゲットできる得点に大幅に差が出たりする…ということも見えてきました。

とくに話題になったのは「北海道」の難しさ!

この教材では、難読地名とそうでない地名でゲットできるポイントが異なるのですが、「北海道」の場合、難読地名に指定されていない地名もかなり難しいということが、わかりました。

ゲームプレイ後、受講生たちには任意で、アンケートに回答してもらったのですが、地名と結びつけることによって、漢字の学習が世界を知ること、世界を広げていくことに結び付いているというような肯定的な側面に着目したコメントもある一方、地名漢字そのものが面白いのでもっとクイズ形式で一人で解いていけるようにしたほうが良いのでは?すごろく形式にすることによってかえって地名漢字の面白さが活かせなくなっているのでは?というような批判的な意見もあり、これをベースにどのように教材デザインを改善していくことができるのか、を考えていくための素材にあふれた意見がたくさんありました。

やはりゲーム教材は、ゲームプレイを体験して終わりにするのではなく、その後に、その教材について感じたことを振り返ることに意味がありますね。

2022年12月27日火曜日

教室から:教材としてのWikipediaについて考える(教職大学院「国語の教材デザイン論と実践Ⅱ」集中授業)

 横浜国立大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻(教職大学院)・「教科教育・特別支援教育プログラム」も2年目に入り、初年度の成果を踏まえた授業内容やカリキュラムの模索が行われています。

教職大学院・授業科目「国語の教材デザイン論と実践Ⅱ(文学・テクスト)」では、昨年度に引き続き「都市論」の視点から近代文学を探求し、実際に現地踏査を行う学習活動を行っていますが、それと平行して、「(国語教育・文学教育の)教材」という視点から、Wikipediaを捉え直し、その活用方法について考える集中授業が実施されました。

今回は講師として、神奈川近代文学館神奈川県立図書館との協働で「Wikipediaブンガク」を企画運営されている田子環さん。その活動の一部については、以下の記事で知ることができます。

-「ウィキメディア財団の助成金と神奈川の人物記事エディタソン」-Diff

そんな田子さんと教職大学院生とがともに、丸一日かけて、講義や演習、実習を交えつつ、「教材としてのWikipedia」について考える(!)という、かけがえのない授業を実現することができました。


受講生6名のうち、これまでにWikipediaの編集経験があるものは、ゼロ。

この日までにWikipedia編集のためのアカウントを作成してきてくれた人は2名という状況でしたが、実習(Wikipediaの記事をチェックし、出典となりそうな資料を探して、実際に出典付けをするという実習)では、すべてのチームが出典付けをするところまで行うことができました。

今回、受講生たちが出典付けをしたページは、以下の3つ。

- [[安岡章太郎]]

- [[蒲団(小説)]]

- [[岡田美知代]]


その後、田子さんや今回サポートしてくださった方々によってさらに編集されており、そのままの状態ではないですが、とにもかくにも、受講生たちはWikipeida上に足跡を残すことができたのです!すごい!

その後、実際に中学校や高校で実践された授業として、Wikipediaにおける既存の中学校の記事ページを見比べる授業(「WikipediaTown稲梓中学校」。希望者のみ別日に開催されるWikipediaTownに参加)や、東京都立町田総合高校の「探究の時間」で行われた「情報のなりたちを考えよう」の授業、そして、さらに生徒たちが実際にWikipediaの編集にも参加していく長野県立高遠高校での実践をご紹介いただき、一言で「Wikipediaを教材として活用する」といっても、そこには多様なバリエーションがあることを知ることができました。

また、受講生自身が実際に、Wikipediaを編集する体験をしたことで、それぞれの実践のなかで光が当てられているWikipediaの側面やエッセンスが異なることも実感しやすかったように思います。

最後には、小学校チームと中高校チームにわかれて、「情報ソースとしてのWikipediaをどのように活用していくか」「授業のなかでWikipediaをどのように活用していくか」について議論を行いましたが、そこでも、Wikipediaの教材性について、受講生たちのあいだで、かなり具体的なレベルでの議論が展開していきました。

独自のルールやマナーをもちながらなりたつ「社会」としてのWikipediaに子どもたちをいかに参加させるのか――Wikipediaの教材としての活用の仕方をめぐって出てきたこの議論は、デジタル社会において市民として生きるための資質能力をいかに育むか、という議論と直結してくるように思います。

「国語の教材デザイン論Ⅱ」では、Wikipediaにおける情報としての文学に焦点を当てるこの授業を経て、さらに、年明けには実地踏査(=文学散歩)とそれを踏まえた発表が行われます。そちらもどのような展開になるのか、ますます楽しみです。



2022年7月18日月曜日

教室から:学習マンガの読み比べ@マンガピット(教職大学院「国語の授業デザイン論と教材デザイン論」

教職大学院授業「国語の授業デザイン論と教材デザイン論」の一環として、「マンガピット」での出張講義を行ってきました。

マンガピットは、2022年3月にオープンしたばかりの、マンガ×学びをテーマにした施設です。

教職大学院の授業は、基本的に、1回あたり2コマ(90分×2コマ=180分(3時間))。そのため、15:00集合・18:00解散の予定でスケジュールを組みました。

具体的なスケジュールはこんな感じです。

はじめに、集まった人たちで「わたしとマンガ」というテーマで自己紹介をしあったあと、その話の流れで、「学び×マンガといえば?」というテーマで自由にいろいろ話しあいをしました。

このフリーディスカッションでは、かなりいろいろな話題が出ました。

国語科の授業において読解対象の理解を促すための副教材として用いられるマンガ(例:「源氏物語」を理解するための副教材としての大和和紀『あさきゆめみし]』)や、マンガによって誰かから離される「話」をよく理解できるようになったといったエピソードのみならず、「LLマンガ」の話、『マンガノミカタ]』で紹介されているようなマンガ表現の読み方についての話まで出てきました。

その後、「これも学習マンガだ!」のプロジェクトや、「マンガピット」の蔵書内容についてご案内いただいたのち、本日のメインの学習活動として考えていた「学習マンガの読み比べ」を行いました。

今回取り組んでみたのは、「伝記マンガ」の比較。

「マンガピット」の蔵書には、いくつかの特徴があり、それを言い尽くすことは難しいのですが、「伝記マンガ」に関しては次のような2つの大きな特徴があるといえます。


(1) 複数社が発行する学習まんがシリーズを揃えていること。

(2) 「ストーリーマンガ」として発行されている「伝記マンガ」も所蔵されていること。

そのため「スティーブ・ジョブズ」に関しては、なんと4作品の比較が可能(!)です。

今回は、時間が限られていることもあり、そんなにたくさんの比較をすることはあきらめて、2社くらいで比較ができそうな歴史上の登場人物をとりあげて、比べ読みをしてみることにしました。

その結果、今回見てみることになったのは、<strong>「ジャンヌ・ダルク(2作品)」「宮沢賢治(2作品)」「ヘレン・ケラー(4作品)」、「紫式部(2作品)」</strong>の4人。

今回はこの4人のみを取り上げましたが、「伝記マンガ」ひとつとってもまだまだ切り口はありそうですし、「学習マンガ」に広げてみると、さらにやれることがたくさんありそうです。引き続き、教職大学院での授業を含め「学習マンガ比較」をいろいろな人たちと、継続的にやってみたいと思います。

2022年7月6日水曜日

ついに最終号!『横浜国大 国語研究』第40号が発刊されました

 1982(昭和57)年に設立された、横浜国立大学国語日本語教育学会が、2021(令和3)年5月をもって、解散することとなりました。

学会解散にともない、学会代表の高木まさき先生より、学会誌『横浜国大 国語研究』の最終号の企画が提案され、このたび、その最終号が発刊されました。


『横浜国大 国語研究』第40号


最終号ということで、現在、横浜国立大学国語領域・日本語教育領域に所属している教員はもちろんのこと、長年在籍されてきた先生方にご寄稿いただいたご論考、大学院生や附属学校教員としてかかわられた方々の論文・随想など、関係者の思いのあふれた…そして、豪華な1冊となっております。

このたび、全文が、横浜国立大学リポジトリで公開されましたので、ぜひご覧くださいませ。









2022年6月3日金曜日

教室から:「高校1年生までに読み手・書き手として親しんでおいてほしいジャンル」

横浜国立大学教育学部2年生の必修授業「初等教科教育法(国語)」では、「読書指導」についても学びます。

今回の「読書指導」の授業では、はじめに、次のような問いについて考えてもらいました。

「あなたは高校教員。新しく受け持つ高校1年生が、読み手や書き手として親しんでおかなければならないと考えるジャンルは何ですか?」

この問いは、エリン・オリヴァー・キーン(2014)『理解するってどういうこと?:「わかる」ための方法と「わかる」ことで得られる宝物(新曜社)のなかで、著者が、高校1年生を担任している先生方に向けて発したことのあるものとして紹介されている問いを参考にしています。
学部生たちは、実際にクラスを担当していることがあるわけではないので、あくまで、高校教員になったつもりで、中学を卒業し高校に入学するまでにどんなジャンルに親しんでおいてもらいたいか、を考えてもらいました。

2クラス計60~70名くらいの学生たちが考えた答えは、次のとおり。
もちろん、まったく回答していない学生たちもいます。



「文学的文章」「説明的文章」…のように、『学習指導要領』に出てきている文言を並べることしかできない学生もいれば、「人間関係を題材にした本」「世界のことがわかるノンフィクション」のように、自分なりに、高校1年生に読んでおいてほしい本のことを考えながら書いてくれる学生たちもいます。

『学習指導要領』の文言を並べることしかできない学生たちは、教科教育法の授業で問われたときの「無難」な回答として、これを書いているのかもしれない、と思うと少し悲しい気持ちになりますが、一方で、自分なりに考えて回答してくれる学生たちもいるのは、とてもうれしい。

そして、自分なりに考えてくれた学生たちの回答からは、いろいろなことを考えさせられます。

今回、わたしが考えさせられたもののひとつは、「週刊少年ジャンプ」



率直な感想として、(「週刊少年ジャンプ」が「ジャンル」かどうか、という問いはおいておくとして)「なるほど。たしかになー」と、すごく納得しました。

事実、日本のなかで、これから高校生活をはじめて、友達を作っていこうとうい段階になって、『週刊少年ジャンプ』の作品になじんでいて、友達から「あれ、見た!?」と言われたときに、「見た、見た!あれさ~…」と語ることのできるリテラシーは、学校生活を送っていくうえで、必要不可欠な感じがします。

あとは、意外に多くてびっくりしたのが、自己啓発本ビジネス書



わたしの周りだと、まだまだ、自己啓発本やビジネス書に対する偏見も根強いので、逆に、「高校1年生までに親しんでおいてほしいジャンル」として、学部生たちが挙げるジャンルのなかに入ってくることには、びっくりします。

クラスごとの違いもあって、面白かったので、秋学期も同じ試みを続けてみようかな、と思っています。



 

2022年3月22日火曜日

教室から:「漢文学の先生といく漢詩の音楽ゲーム」動画公開されました!

 以前、こちらの記事で報告しておりましたとおり、横浜国立大学教育学研究科高度教職実践専攻(教職大学院)の授業「国語の教材デザイン論と実践Ⅱ」にて、高校国語科における漢詩学習と結びつくようなゲーム実況動画の作成を試みておりました。

(過去記事)教室から:『陽春白雪~Lyrica~』のゲーム実況で動画教材づくり

本日、ついにその動画が、横浜国立大学公式Youtubeチャンネルにて公開されました!



ぜひ、ご覧いただければ幸いです!
なお、こちらの動画は、教職大学院「報告会・報告書」のページからもご覧いただくことができます。