2024年12月26日木曜日

教室から:情報としての文学/情報活用能力育成教材としてのWikipedia(教職大学院「国語の教材デザイン論と実践Ⅱ」集中授業)

教職大学院における「国語の教材デザイン論と実践Ⅱ(文学・テクスト)(第5ターム・集中)の授業の一環として、今年も、田子環さんによるゲストレクチャーを行いました。


「Wikipediaについて考える授業」は今年で3年目

このゲストレクチャーは、2022年度から実施しているもので、今年で3年目の試みとなります。

※(参考)教室から:教材としてのWikipediaについて考える(教職大学院「国語の教材デザイン論と実践Ⅱ」集中授業)-横浜国立大学国語教育研究会

「国語の教材デザイン論と実践Ⅱ(文学・テクスト)」は近現代文学担当教員と国語教育学担当教員(石田)の共同担当科目として開講されているものです。本年度のシラバスはこちらのとおり。2022年度の授業では、東郷克美・吉田司雄編(2017)『〈都市〉文学を読む』(鼎書房)などを参考図書としながら、受講生たちがそれぞれに、都市論の視点から文学作品を読みとき、実際にまちあるき(「文学散歩」)を行う授業が行われていました。2022年度の実践はそのような全体の流れとして位置づけられたものでしたので、「社会・文化的な情報を担う装置としての文学を捉える」という共通点はもちつつ、「文学テクストのなかの(「場所」という)情報を捉える」のか、「文学作品をめぐる(「作家」に関するものなどの)情報を捉えるのか」という点で、異なるアプローチをとっていたように思います。

これに対し、昨年度(2023年度)および本年度(2024年度)は、「国語の教材デザイン論と実践Ⅱ(文学・テクスト)」が、「地域資源としての「文学館」を活用した教材開発について考えること」へと変更され、それにともない、この集中授業の位置づけも変わることとなりました。

初年度(2022年度)は単に、「文学作品をめぐる情報」が掲載されているメディアのひとつとしてWikipediaのページに書かれている情報を読みとき、図書館内にある確かな出典情報を探し出してそれをもとに出典をつける…という内容だったのですが、それに加えて、「地域資源としての「文学館」」を活用したひとつの試みとして「Wikipediaブンガク」をご紹介いただくことが必要になりました。

そのため、本年度は、授業が開始する10時から11時30分まで、たっぷり時間をかけて、田子さんに「Wikipediaブンガク」の紹介(世界中で展開されている「ウィキペディアタウン」やその流れのなかでの「Wikipediaブンガク」の位置づけ、神奈川近代文学館や神奈川県立図書館とのネットワーク、各回の「Wikipediaブンガク」に向けた準備の具体や、「Wikipediaブンガク」の成果と課題など)についてお話しいただきました。

お話しを聞いていた4名の受講生からは、広報の仕方についてなど具体的な質問がある一方、「このようなイベントは、教育委員会による後援や共催で行うべきではないか」「教科書掲載作品やその作家などを扱う場合には、教員、司書教諭・学校司書の研修として実施できるのではないか」という積極的な意見が出たりしました。


Wikipediaのイメージ

午後以降のプログラムは、初年度(2022年度)と同様、前半に、田子さんに「Wikipediaとは何か」についてレクチャーをしていただいたあと、受講生たちがこのあとフィールドワークを行おうと思っている文学館のページについての記事チェックを行いました。

田子さんによるレクチャーを行う前に、4名の受講生たちに「Wikipediaのイメージ」について質問した結果がこちら。


多くの人たちがWikpediaの便利さを認めているものの、信頼性については意見がわかれていたことが報告されています。「多くの人は、ウィキペディアの情報は信頼性に欠けると考えており、編集したことがない人ほど、ウィキペディアは信頼できないものと考えている傾向」が見出されたたとのこと(Wikipedia認知度調査アンケート 第1次結果報告-Diff)。

今回の授業の受講生である教職大学院生(全員Wikipediaの編集経験はありません)にも同じような傾向が認められます。
一方、現在、現職教員として勤務している受講生のひとりが「(20年ほど前に)学校でWikipediaをとりあげたことがある」ともおっしゃっていたのですが、その方のWikipediaへのイメージが必ずしもネガティブではなかったことが、非常に興味深いと思いました。20年前に授業で取り上げたときにご覧になったであろうWikipediaのページは、今見られるものとは相当違っていたと思うのですが、それでもそのようなかたちで、一度「教材」としてWikipediaを見て、丁寧に分析する経験を持つことには、なにか大きな意味があるのかもしれません。

その後遅れて参加してきた1名を含む5名の受講生たちは、「日本近代文学館」「まちだ市民文学館ことばランド」「世田谷文学館」「江戸川区角野栄子児童文学館」「大佛次郎記念館」「さいたま文学館」の記事に加筆したり出典をつける体験をしました。

印象的だったのは「さいたま文学館」に加筆した受講生。
あまりに現在のページの情報が少ないせいだとも思うのですが、ひとつ情報を追加しただけで、世界中の人たちにとって有用な情報が発信できたような気持ちになる…そんな高揚感を味わっていた様子でした。


Wikipediaを学校教育でいつ、いかに扱うべきなのか

最後の振り返り会のなかでは、Wikipediaを編集・加筆することでしか得られない「高揚感」や、それによって実感される「(オンライン上で情報を発信することの)責任感」と、Wikipediaを編集・加筆することにともなうリスクとのバランスをいかにとるか、という点が話題になりました。

Wikipediaについては、いまや、NHKの教育番組「アッ!とメディア~@media」」でも取り上げられ(「その情報信じられる? ~読者投稿型サイト~」-「アッ!とメディア~@media」)、NHK for Schoolサイトで、2分程度のWikipediaに関するクリップ動画も見ることができます(「「ウィキペディア」を読み解く」)。「先生向けモード」で見ると、渡辺光輝先生(お茶の水女子大学附属中学校)による「授業プラン」まで見ることができます。


ここまで情報が整うなか、そして、Wikipediaによる情報収集をさらに超えて、生成AIによる情報検索が生徒たちにとって身近なものになっていくなか、Wikipediaについてどう学校のなかでいかに、どのようなかたちで取り上げるのか、そしてその扱うべきタイミングはいつなのか、といった点について、それぞれの先生がたが、各学校・クラスの実情に応じて、考えていかなければいけないのだろうと思います。

教職大学院での授業が、そのようなことを考えていける教員を育成するための一助になることを願ってやみません。

2024年12月24日火曜日

教室から:国立国会図書館(東京本館)&大宅壮一文庫ツアーを行いました

国立国会図書館「個人向けデジタル資料送信サービス」の衝撃

 2022(令和4)年5月に、国立国会図書館「個人向けデジタル化資料送信サービス」が開始し、文献調査法の世界が大きく変わりました。

その影響は、国語(科)教育研究においてもとても大きなものであったと実感しています。

これまで、関心ある国語(科)教育の実践例を調べようと思ったら、『国語教育総合事典』(日本国語教育学会編)の「第Ⅲ部資料編」に掲載されている「『月刊国語教育研究』特集関連総目次」を見ながら過去の実践例を探すしかありませんでした。さらにいえば、そうやって調べられる目次も、2011年11月号(10年以上前!)までで、2011年12月号以降は、図書室にこもって過去のバックナンバーを手当たり次第に見てみるしかない状況でした。

それがいまや、「国立国会図書館デジタルコレクション」でパパッと2016年12月号まで、インターネット上で調べられるような状況。

月刊国語教育研究【全号まとめ】-国立国会図書館デジタルコレクション

目次だけであれば、国立国会図書館の利用者登録をせずとも、だれでも調べることができます。さらに、利用者登録をすれば大学でも家でもどこでも、本文を閲覧できてしまうわけです。これはまさに「革命」的事件だと思っています。

そのような話をしながら「利用者登録不可避!」と何度も繰り返していたところ、学部生から「それなら、国立国会図書館の利用者登録をしたい」「せっかくだから、みんなで国立国会図書館に行って、どのように利用するのか体験してみたい」という声があがりました。

また、今年度担当している学部生たちのなかには、「怪談」「都市伝説」や「ミステリー」などの大衆文化や、地域・社会と学校(教育)との関係など、社会史・文化史的なアプローチで調査をしていくことで、研究の切り口が見出せそうな人たちも多かったため、「ぜひ大宅壮一文庫の存在も知ってほしい!」と思い、午前に国立国会図書館に行き、午後に大宅壮一文庫をめぐるツアーを企画・実施しました。


事前学習

今回の授業では、1週間前の授業で各自、それぞれの図書館の利用方法について事前学習をしてもらうことにしました。

国立国会図書館の事前学習

学部生たちにとってはどうしても「図書館」といえば「開架式」の図書館をイメージしますし、すでに国立国会図書館利用経験のある学部生・院生たちに聞いてみると、国立国会図書館館内の厳格な雰囲気と、入館に必要なさまざまな手続きに、ぎょっとすることも多いようだったので、「国立国会図書館」HP内の「入館」に関する案内ページと、「国立国会図書館東京本館への入館方法」の映像を事前に見てもらうことにしました。


また今回は国立国会図書館に滞在できる時間が少なく、また、午後に大宅壮一文庫に行くことも決定していたので、国立国会図書館内で利用できるデータベースも紹介し(「国立国会図書館内で使用できる主なデータベース」)しておきました。

大宅壮一文庫の事前学習

大宅壮一文庫については、事前に、文庫の職員の方と連絡をとれていたこともあり、「大宅壮一文庫」のリーフレットを全員に配布することができました。
また、横浜国立大学では残念ながら「WEB Oya-bunko」を利用できないので、当日、国立国会図書館か大宅壮一文庫で「WEB Oya-bunko」を利用してもらうことを想定し、大宅式「件名項目体系」を事前に見てもらいました。


また、大宅壮一文庫では、職員の方によるバックヤードツアーや説明も行っていただく予定だったので、学生たちには、大宅壮一文庫やWEB Oya-bunkoについての質問を考えておいてもらい、それを事前に先方と共有しておくことにしました。

国立国会図書館へ

当日は、午前9時30分に、国立国会図書館の入口に集合。
はじめに全員で新館に行き、利用者登録をおこなったのち、本館入口から入ってロッカーへ。

「リユースバック」という謎の存在、そして、ロッカーに自分の持ちもののほとんどを預けなければいけないというルールに衝撃を受け、なぜか発行してもらったばかりの入館証をロッカーに預けてしまったり、パスワードが記された用紙をロッカーに入れたバッグに入れっぱなしにしたりしたり…といろいろありながら、なんとか、全員入館!

そこまで頑張って入館したものの、スケジュール上、1時間くらいしか滞在できないので、午後の調査に向けて「WEB Oya-bunko」を見てもらったり、新聞データベースを見てもらったりする時間に。
ただ、実際見てみると、学生たちは、すでに発見していたお目当ての資料を探しに行ったり「NDLサーチ」でいろいろ検索したりしてみているようでした。

大宅壮一文庫へ

午前11時過ぎ頃、一旦解散し、「午後1時に大宅壮一文庫に集合」と約束して、一旦解散。
午後1時10分頃、学部生たちが大宅壮一文庫に到着しました。

大宅壮一文庫と専門図書館

はじめに、大宅壮一文庫内にある「書斎」(大宅壮一氏の書斎を再現した部屋)にて、大宅壮一文庫について、そして「大宅壮一文庫」をはじめとした専門図書館についてご説明をいただきました。
偶然なことに、ちょうどう訪問を行った当日に「あなたも使える専門図書館」の図書館総合点展でのトークイベント動画(アーカイブ動画)が公開されたとのこと。年末年始に見てみたいと思います。


バックヤードツアー

その後は、大宅壮一文庫のバックヤードへ!
大宅壮一文庫は、複数号の雑誌をまとめて製本する、いわゆる「製本雑誌」「合本製本」を創っておらず、雑誌がそのままの状態で書架で保管されています。
大学図書館や県立図書館などで、製本雑誌を見る機会は数多くあれど、これだけの量の雑誌が、そのままの状態で書架に並んでいる状態を見る機会は、ほとんどありません。
そのため、すでに背表紙が崩れてしまっているような状況のものもあり、そういうものも含めて、なんとも言葉に言い表せない、圧倒的なオーラを感じます。


1960年代後半に発刊された『平凡パンチ女性版(平凡パンチ臨時増刊)』(『an・an』の前身)の表紙に複数印刷されている「女性版」「女性版「女性版」に時代の空気を感じたり、『ジュニアそれいゆ』のすてきなデザインに心ときめいたりする、大宅壮一文庫のバックヤードツアー。
なぜか学生たちが『文藝春秋』のバックナンバーを見るのに夢中になっていたのが印象的でした。

その後は、質疑応答の時間をはさんで、いよいよ、雑誌の節欄。
学生たちそれぞれに、事前に調査してきた内容にもとづき(あるいはその場で「WEB Oya-bunko」の検索を行ったうえで)雑誌の閲覧申込を行い、それぞれに、関心ある雑誌記事を見てみたり、そこに書かれている記事内容をメモをしたりしていたようでした。

ふだん使っている、大学図書館や、地域の公立図書館とは異なる図書館(国立国会図書館、専門図書館)を知ることで、「文献で調べられること」の広い世界に気づく…そんな機会を創れればと思って企画・実施した国立国会図書館&大宅壮一文庫ツアー。

学生たちに、いろいろな図書館を知ってもらうことで、文献の広い世界、多様な世界に気づき、そこから卒業論文に向けてのアイデアを着想するような…そんな機会を、もっともっとつくっていきたい、とあらためて思いました。