2022年12月27日火曜日

教室から:教材としてのWikipediaについて考える(教職大学院「国語の教材デザイン論と実践Ⅱ」集中授業)

 横浜国立大学大学院教育学研究科高度教職実践専攻(教職大学院)・「教科教育・特別支援教育プログラム」も2年目に入り、初年度の成果を踏まえた授業内容やカリキュラムの模索が行われています。

教職大学院・授業科目「国語の教材デザイン論と実践Ⅱ(文学・テクスト)」では、昨年度に引き続き「都市論」の視点から近代文学を探求し、実際に現地踏査を行う学習活動を行っていますが、それと平行して、「(国語教育・文学教育の)教材」という視点から、Wikipediaを捉え直し、その活用方法について考える集中授業が実施されました。

今回は講師として、神奈川近代文学館神奈川県立図書館との協働で「Wikipediaブンガク」を企画運営されている田子環さん。その活動の一部については、以下の記事で知ることができます。

-「ウィキメディア財団の助成金と神奈川の人物記事エディタソン」-Diff

そんな田子さんと教職大学院生とがともに、丸一日かけて、講義や演習、実習を交えつつ、「教材としてのWikipedia」について考える(!)という、かけがえのない授業を実現することができました。


受講生6名のうち、これまでにWikipediaの編集経験があるものは、ゼロ。

この日までにWikipedia編集のためのアカウントを作成してきてくれた人は2名という状況でしたが、実習(Wikipediaの記事をチェックし、出典となりそうな資料を探して、実際に出典付けをするという実習)では、すべてのチームが出典付けをするところまで行うことができました。

今回、受講生たちが出典付けをしたページは、以下の3つ。

- [[安岡章太郎]]

- [[蒲団(小説)]]

- [[岡田美知代]]


その後、田子さんや今回サポートしてくださった方々によってさらに編集されており、そのままの状態ではないですが、とにもかくにも、受講生たちはWikipeida上に足跡を残すことができたのです!すごい!

その後、実際に中学校や高校で実践された授業として、Wikipediaにおける既存の中学校の記事ページを見比べる授業(「WikipediaTown稲梓中学校」。希望者のみ別日に開催されるWikipediaTownに参加)や、東京都立町田総合高校の「探究の時間」で行われた「情報のなりたちを考えよう」の授業、そして、さらに生徒たちが実際にWikipediaの編集にも参加していく長野県立高遠高校での実践をご紹介いただき、一言で「Wikipediaを教材として活用する」といっても、そこには多様なバリエーションがあることを知ることができました。

また、受講生自身が実際に、Wikipediaを編集する体験をしたことで、それぞれの実践のなかで光が当てられているWikipediaの側面やエッセンスが異なることも実感しやすかったように思います。

最後には、小学校チームと中高校チームにわかれて、「情報ソースとしてのWikipediaをどのように活用していくか」「授業のなかでWikipediaをどのように活用していくか」について議論を行いましたが、そこでも、Wikipediaの教材性について、受講生たちのあいだで、かなり具体的なレベルでの議論が展開していきました。

独自のルールやマナーをもちながらなりたつ「社会」としてのWikipediaに子どもたちをいかに参加させるのか――Wikipediaの教材としての活用の仕方をめぐって出てきたこの議論は、デジタル社会において市民として生きるための資質能力をいかに育むか、という議論と直結してくるように思います。

「国語の教材デザイン論Ⅱ」では、Wikipediaにおける情報としての文学に焦点を当てるこの授業を経て、さらに、年明けには実地踏査(=文学散歩)とそれを踏まえた発表が行われます。そちらもどのような展開になるのか、ますます楽しみです。